Artist PlusのBlogに足をお運びいただき、誠にありがとうございます!
今回は小笠原が書きます。
プロフィールページにも記載している通り、私は、理学療法士の仕事をしながら趣味でクラリネットの演奏活動をしてきました。循環器認定理学療法士や三学会合同呼吸療法認定士の資格を取得しており、心肺機能についての知識や運動処方を患者様に提供する機会が多くありました。
そこで今回は、吹奏楽の楽器奏者としては気になるであろう、「肺活量」についてのお話しをしていきます!
「肺活量」という言葉は、吹奏楽奏者にとってよく使い、よく耳にする言葉ですよね!
「肺活量を鍛えて、たっぷり呼吸できると、息が切れにくく、表現の幅が広がる」などのイメージを持つ方が多いと思います。
しかし、それが本当にそうなのか?
私自身、演奏の上で、「息が続かない!」と思うことが多々あり、「肺活量が足りないのかな?」と悩んだことがあります。
肺活量が少ないと、ロングトーンや長いフレーズの演奏は難しくなる?肺活量は鍛えられるものなのか?
ということについて、解説していきます。
目次
1.そもそも肺活量とは?
肺活量とは、総肺気量から残気量(息を吐き切っても肺の中に残っている空気)を引いた容量を指します。つまり、限界まで吐いてから限界まで吸い、もう一度、「限界まで吐いたときに吐き出せる空気の量」で計測されます。
目安は、男性が3500mL、女性が2500mLとなっています。男女差があるのは、肺の大きさが体の大きさにだいたい比例するためです。
肺活量は医療機関での検査などで必要な場合に測定されることがあります(肺機能検査)。その際、スパイロメーターと呼ばれる医療機器を使用し、肺活量の他にも「1秒率」という指標も測定されます。「1秒率」とは、「吸った空気の何%を1秒間に吐ききれるのか」という指標です。一般的には呼吸器疾患の診断に役立てるために気管支の状態を推測するものですが、健康な人の場合は、肺から空気を押し出す力も反映されると考えられます。
2.いわゆる「息を長く持たせる」ことに影響するもの(① 肺活量、②最大酸素摂取量)
①肺活量
「体が小さく肺活量が小さい人よりも、体が大きく肺活量が大きい人の方が長くロングトーンできる」という事は、吹奏楽の楽器奏者の方ならイメージしやすいと思います。実際にはその通りだと思います。楽器を響かせるのに適切な量の息を長く入れ続けるためには、楽器の大きさを問わず、息を吸える量が多い方と良いです。
②最大酸素摂取量
最大酸素摂取量とは、「体の中にいかに酸素を取り込めるか」という、運動耐容能(いわゆる体力)の指標の1つです。ロングトーンで苦しく感じるかどうか、また、長時間の演奏でバテずにパフォーマンスできるかどうか、という所に影響します。これはアスリートのトレーニングや医療現場においても必須の指標となっていて、CPX(Cardiopulmonary Exercise Testing)という、日本語では「心配運動負荷試験」と呼ばれる検査で測定可能です。吐いた息と吸った息に酸素・二酸化炭素がどれだけ含まれているかを測定するマスクを着用し、心電図や血圧を測定しながら、徐々にペダルが重くなるエアロバイクを限界まで漕ぐという、なかなか過酷な検査です!(笑)
3.肺活量は鍛えられる?
肺活量は肺の大きさに比例しますが、トレーニングで肺が大きくなることは無いため、大きく増加させることは難しいです。
ですが、肺の周りにある筋肉を柔軟にし、肋骨や脊椎などの関節を動かしやすくすることで、肺に空気が入りやすい状態にすることは可能です。吹奏楽の楽器奏者は基本的に両腕で楽器を持ち、口にマウスピースを当てて演奏します。その際、運動学的に、胸郭(肋骨と脊椎で囲まれた、肺や心臓が入っているカゴのような部位)が動きにくい姿勢になりやすいと考えられます。楽器を手や口で操作することに意識が向きすぎると、胸郭周囲の関節や筋肉がより縮こまってしまい、肺に十分な空気を取り込むことが難しくなる場合があります。奏者自身が、「どの姿勢で、どこに意識を向けると自然にたっぷり息を吸うことができるのか」ということを日頃から意識し、ベストな演奏姿勢を探っていくことが大切です。より良い姿勢に近づけるためには、ストレッチや筋力トレーニングを適切に行う必要もあり、それらが結果的に、自身の持つ肺活量を最大限使えるようになることにつながると考えられます。
4.最大酸素摂取量は鍛えられる?
最大酸素摂取量はトレーニングで鍛える(増やす)ことができます。そのためには、有酸素運動が効果的です。心肺機能を高め、体中で酸素を取り込みやすくなり、疲れにくい体の状態にすることができます。つまり、体のスタミナがアップするということです。
最大酸素摂取量を測定するCPXという検査では、心拍数も同時に計測されます。最大酸素摂取量と心拍数は相関することがわかっており、測定の難しい最大酸素摂取量を推測するために心拍数(脈拍数でも代用可)を指標としてトレーニングの負荷量を設定します。
有酸素運動を継続していくと、体に酸素を取り込む能力が向上し、少ない血液循環でも効率的に体を機能させることができるようになるため、運動時の心拍数上昇を抑える効果もあると言われています。心拍数が上がると「ドキドキ」と精神的な緊張も引き起こしやすく、演奏者のパフォーマンスにも影響を及ぼすものと考えられます。そのため、有酸素運動は、体のスタミナアップに加え、演奏時のメンタルコントロールにも良い影響をもたらすかもしれません。
5.効果的な有酸素運動の方法
有酸素運動には、心拍数を目標心拍数まで上昇させる運動を1日に合計20〜60分、週に3~5日実施することが推奨されております。
目標心拍数の求め方はカルボーネン法といい、以下の通りとなります。
【(220-年齢-安静時心拍数)×0.4〜0.6+安静時心拍数】
安静時心拍数とは、安静にしている状態での1分間の心拍数。0.4〜0.6は、運動強度(40〜60%)。運動強度の目安は、笑顔で運動を続けられ、「やや疲れた」と感じる程度が適切です。
運動種目は、ランニングや、階段昇降、自転車、水泳などがおすすめです。
※心拍数は、脈拍数でも代用可能です。
※高血圧症や不整脈のある方は、必ず医師に相談してから行いましょう。
6.演奏の「表現力」や「音質」とは関連しにくい
実は…肺活量も最大酸素摂取量も実際の演奏の表現力や音質には大きく影響しないと考えられています。その理由としては、肺の容量や体のスタミナよりも、いかに効率的に息を使うか(マウスピースへの息の当て方、楽器の響かせ方、息の吸い方、息を吐くときの量や圧力のコントロールなど)という技術の方が直接的に影響するからです。
よく用いられる。呼吸トレーニング(肺活量アップとうたっているものでも)は、主に息使いの細かな目的にしているものが多いと考えられます。
7.肺活量にとらわれなくていい!
肺活量や体力は、体の大きさ、性別、年齢に応じて個人差があります。
しかし、プロの奏者は、男性・女性、若年者・高齢者まで様々な方がおります。
演奏の技術や表現力は、肺活量ではなく、いかに効率的に息を使って楽器を響かせるかが大切だとすると、肺活量が足りないと悩むことが減り、自分の体の性質を受け入れ、それに合わせた前向きな練習に取り組めるのではないかと考えられます。
もちろん!肺活量を鍛えていくメリットもあります。肺活量が増えると、ゆったりとしたフレーズにも余裕を持って対応できるようになりますし、副交感神経が優位となり精神的な安定にも関与するとも言われています。またそのあたりについては今後書いていこうかと思います。
様々な楽器に対する息使いの方法を解説する事は難しいですが、体のより良い使い方を運動学・解剖学の視点から解説していく事は、音楽経験のある理学療法士の私たちが得意な分野であります。
今後、こちらのブログで、随時投稿して参りますので、ご興味のある方はぜひご覧いただけると幸いです。
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