BGM(背景音楽)は、カフェやレストラン、オフィスなど、様々な場所で流され、その場の雰囲気を創出する役割を担っていますが、BGMが与える効果は、人によって大きく異なる可能性があるなと、先日某コーヒーショップでパソコンをいじっている時にふっと思ったので今日はそれについて書いてみようと思います。特に、一般人と、音楽を専門的に学んでいる音大生や音楽家では、BGMに対する感受性や反応に違い、つまり与える影響が違うのではないか、について。
目次
1. BGMの一般的な効果
まず、BGMが一般的に人にもたらす効果について、これまでの研究から、BGMは以下のような効果をもたらすことがわかっているようです。
感情の誘導: 穏やかな音楽はリラックス効果をもたらし、活発な音楽はやる気を高めるなど、音楽は感情に直接的な影響を与える。
認知機能への影響: 集中力を高めたり、記憶力を改善したりする効果が報告されている。ただし、タスクの種類や個人の特性によって効果は異なる。
行動への影響: 消費行動や滞在時間など、人の行動に影響を与えることがわかっている。例えば、店舗でのBGMは、購買意欲を高めたり、滞在時間を長くしたりする効果が期待できる。
生理反応への影響: 心拍数や血圧、呼吸数などの生理反応に影響を与えることが報告されている。
2. 一般人と音楽家の違い:音楽に対する知覚と認知
一般人と音楽家では、音楽に対する知覚と認知に大きな違いが見られるとされています。
音の細部への注意: 音楽家の方が、音の高低、強弱、音色などの音の細部に注意を払う傾向がある。これは、長年の音楽訓練によって培われた能力によるとされる。
音楽構造の理解: 音楽家の方が、音楽の構造(メロディー、ハーモニー、リズムなど)をより深く理解している。
感情の認識: 音楽家の方が、音楽から伝わる感情をより正確に認識できる可能性がある。
これらの違いは、BGMに対する反応にも影響を与えると考えられます。
3. 論文を交えて考察してみる
3.1 感情への影響
一般人: BGMによって誘導される感情は、主に音楽のテンポや音色によって決まるとされる。例えば、テンポが速い音楽は高揚感を、ゆったりとしたテンポの音楽はリラックス感を誘発する。
音楽家: 音楽家も同様に感情に影響を受けるが、より複雑な音楽構造や音色に反応し、細やかな感情の変化を捉えることができる。また、音楽の文脈や演奏者の意図なども考慮して、感情を解釈する傾向がある。
3.2 認知機能への影響
一般人: BGMは、集中力や記憶力に一定の効果をもたらすが、個人の好みやタスクの種類によって効果は異なる。
音楽家: 音楽家の方が、音楽を聴きながら他のタスクを行う場合でも、高い集中力を維持できる可能性がある。これは、音楽の構造を理解しているため、音楽に気を取られずにタスクに集中できるためと考えられる。
3.3 行動への影響
一般人: BGMは、消費行動や滞在時間など、様々な行動に影響を与える可能性がある。しかし、その効果は個人差が大きく、必ずしも予測できない場合がある。
音楽家: 音楽家の方が、BGMによって誘導される行動に対して、より意識的な反応を示す可能性がある。例えば、不快な音楽が流れている場合、その場から離れたり、音楽を遮断したりする行動をとるかもしれない。
といったことが書かれていますが、ある知り合いの某有名音楽大学の子の卒業研究の発表を聞かせてもらった時に興味深い内容だったのを思い出しました。
それは、「BGMは一般人よりも音大生にとって雑音として認知してしまう可能性がある」というものでした。
これは上記の認知機能の影響の部分とは真逆の考察のように感じますが、行動への影響としては矛盾がないように感じます。確かに自分の好きな音楽が流れている時と興味のない音楽が流れている時でその音楽に耳を傾ける割合は変わってきますもんね。
4. まとめと今後の展望
一般人と音楽家では、BGMに対する感受性や反応に大きな違いが見られます。音楽家の方が、音楽の構造や音色をより深く理解しており、感情や認知、行動にもより複雑な影響を受ける傾向があります。
しかし、これらの研究はまだまだ発展途上であり、今後の研究によってさらに深い知見が得られることが期待されます。例えば、脳科学的なアプローチを用いて、BGMが脳に与える影響を詳細に分析する研究などが行われると更なる知見が出てくるのかなと思います。
5. 結論
BGMは、私たちの生活に様々な影響を与えているのは間違いありません。しかし、その効果は人によって大きく異なることがわかりました。数少ない文献からでも特に、音楽に対する専門的な知識や経験を持つ音楽家と、一般人では、BGMに対する反応に違いが見られることが明らかでした。
お店の中で流すBGMなどを決める上で今回のような知見を踏まえて考えると何かしらの効果が期待できるかもしれませんね。
【参考文献】
感情への影響:
Blood, A. J., & Zatorre, R. J. (2001). Intensely pleasurable responses to music correlate with activity in brain regions implicated in reward and emotion. Proceedings of the National Academy of Sciences, 98(20), 11818-11823.
Juslin, P. N., & Västfjäll, D. (2008). Emotional responses to music: The need to consider underlying mechanisms. Behavioral and brain sciences, 31(5), 559-575.
認知機能への影響:
Schellenberg, E. G. (2005). Music and cognitive abilities. Current Directions in Psychological Science, 14(6), 317-320.
Rauscher, F. H., Shaw, G. L., & Ky, K. N. (1993). Music and spatial task performance. Nature, 365(6447), 611-611.
行動への影響:
North, A. C., & Hargreaves, D. J. (1995). The social and applied psychology of music. Oxford University Press.
Milliman, R. E. (1982). Using background music to affect the behavior of supermarket shoppers. Journal of marketing, 46(3), 86-91.
音の細部への注意:
Brattico, E., Tervaniemi, M., Näätänen, R., & Peretz, I. (2001). Musical scale properties are automatically processed in the human auditory cortex. Brain research, 898(1), 162-175.
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音楽構造の理解:
Koelsch, S., Gunter, T. C., Friederici, A. D., & Schröger, E. (2000). Brain indices of music processing: “nonmusicians” are musical. Journal of cognitive neuroscience, 12(3), 520-541.
Bigand, E., Poulin-Charronnat, B., Madurell, F., & D'Adamo, D. (2001). Are we “experienced listeners”? A review of the musical capacities that do not depend on formal musical training. Cognition, 80(1-2), 1-71.
【キーワード】
BGM, 音楽心理学, 感覚, 認知, 行動, 音楽家, 脳科学
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