今回は最近よく相談件数も増えているミュージシャンズジストニアについて書いていきたいと思います。この病気は局所性ジストニアと呼ばれる職業ジストニアの1つですが、その中でも音楽家の方が発症するミュージシャンズジストニアは音楽家生命に関わる病気の1つと言われています。まずはミュージシャンズジストニアがどんな病気なのか知っていただければと思います。
目次
1.ミュージシャンズジストニアとは?
「ジストニア」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。ジストニアとはいわゆる体の部位が無意識に強張る不随意運動の1種です。ジストニアには「全身性」「多巣性」「分節性」「局所性」とあり、ミュージシャンズジストニアは局所性動作特異性ジストニアと呼ばれる職業ジストニアの1つとされています。これは、特定の動作を繰り返すことで、脳の神経回路に異常が生じ、意図しない筋肉の収縮が起こる神経疾患です。
ピアノを弾く時だけ指が思うように動かない、ヴァイオリンの弓が引けないなど、その症状は人それぞれですが、共通しているのは、「以前はできていたことが、突然できなくなる」ということです。
2.なぜ理解されにくいのか?
この病気は、「心因性」や「精神的な問題」と誤解されがちです。本人が「やりたいのにできない」という強い葛藤を抱えているため、周囲からは「もう少し頑張ればできる」と思われがちなのです。広い括りでいえば、野球選手などが急にうまく投げられなくなってしまう「イップス」も局所性動作特異性ジストニアの一種と考えられていますが、これは脳の機能的な問題に精神的な側面が加わることで発症すると言われています。しかし、ミュージシャンズジストニアの主な発症原因は、脳の機能的な問題のみに限局しているため、本人の努力やメンタルトレーニングではどうにもならない病気であるということを知っていただきたいと思います。
3.精神的な影響
ミュージシャンズジストニアは、身体的な症状だけでなく、精神的な影響も大きい病気です。発症に関して主な原因がメンタルで起こる、ということはありませんが、コンクールやオーディションなど精神的ストレスが強くかかる環境下では症状が出やすいとされます。つまり発症の原因にはならないが症状の増悪因子にはなるということが言えます。また、この病気によって精神的なストレスを感じ、精神疾患を併発してしまうことがあるということも症状を複雑にしている要因かと思います。
これまでの人生をかけて築き上げてきた技術を失ってしまうこと、演奏以外の日常生活などでは一切症状が出ないため周囲の理解を得られないことなど、様々なストレスが心身に蓄積されていくこの病気は精神的な影響がとても大きいと言えるでしょう。
4.治療と回復
局所性ジストニアの治療は、残念ながら短期間で劇的に改善することは難しいのが現状です。しかし、適切なリハビリや治療、そして周囲の理解と協力によって、症状を改善し、再び自分の好きなことを楽しめるようになる可能性は十分にあります。
重要なのは、
発症前のような練習をしないこと: 症状を悪化させる可能性があります。
動作をゆっくりと丁寧に繰り返す: 正常な動きを再学習することが大切です。
周囲の理解と協力: 指導者の方々には、患者の症状に合わせた指導をお願いしたいです。
※治療に関しては当サービスでは根気強くリハビリレッスン1)を行うことを推奨しています。
1)当サービス特別アドバイザーである青嶋医師が複数のジストニアを経験した音楽家の先生方と対談し、その経験や医師である自身の考えを基に作り出したオリジナルのメソッド。
※脳外科手術やボツリヌス注射治療をしなくても改善する症例は増えてきています。しかし侵襲的な治療が必要な方、その治療が奏功している方もいらっしゃること、病院での治療そのものを否定するものではありません。
5.指導者の方々へ
局所性ジストニアに罹患することによって新たに精神疾患を併発するということは珍しくなく、身体的・心理的ケアの両方が重要になります。
局所性ジストニアに罹患している生徒さんに対しては、以下の点にご理解とご協力をお願いいたします。
本番や試験の調整: 罹患部位への負担を減らすための配慮をお願いします。
難易度調整: 患者の症状に合わせて、練習メニューや課題の難易度を調整してください。
患者の気持ちに寄り添う: 患者は、自分の好きなことができなくなったことで大きなストレスを抱えています。温かい言葉をかけて励ましてあげてください。
※なにより、指導者の方々の理解が絶対的に必要と考えています。某有名音楽大学の先生からも、今まで生徒からこのジストニアと思われる症状に悩み相談された際、イップスだからと心療内科を勧めてしまっていたという話も伺いました。
まずは局所性ジストニアという病気があるということ、その病気に対して専門的に相談したり治療できる場所があるということを知っておいていただければと思います。
6.まとめ
局所性ジストニアは、決して諦めるべき病気ではありません。適切な治療と周囲のサポートがあれば、克服できる可能性は十分にあります。この病気について、より多くの方に知っていただき、患者さんを温かく見守っていただけたら幸いです。
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